2020年のおすすめ本
2月
大学初年次向けの本と謳われているが、著者ならではの議論が散りばめられており、なかなかの読みごたえがある。とはいえ、色々とツッコミどころの多い本でもあるので、読む際には「自分だったらどう考える?」という疑問をぶつけるのが良いのではないだろうか。
5月
- 金凡生(2020)『紫外線の社会史』岩波書店。
紫外線については以前から権利問題ではなく事実問題の観点から分析が必要だと思っていたのだが、気鋭の書き手が昨今の状況に応じた一冊を発表したことでその懸念も払拭された。特に、日本における紫外線の受容史という観点から見たとき、他に類書がないということもあって、紫外線というキーワードをもとに日本の過去をさかのぼりたい方にとっては必読書ではないかと思う。
8月
環境美学の基本から最先端まで一挙に学ぶことができる贅沢な一冊。「英米系」と副題には付されているが、実際にはアジア圏の美学も視野に入れた射程の広い議論が展開されている。「環境」というキーワードに関心のある方のみならず、現代美学の議論に関心のある方にも強く推薦したい。
9月
- 小田部胤久(2020)『美学』東京大学出版会。
カント『判断力批判』が美学の基本書であることは分かりつつも、実際に手を取ってみたら全く歯が立たなかった方におすすめの一冊。これで美学の基本を学ぶというよりも、美学の成立を歴史の端緒から追ってみたい方にぜひとも推薦したい。(著者自身が言及しているが)副読本として『西洋美学史』(2009)を手元に置いておくと理解が進むだろう。
10月
環境倫理学について一から学びたい方は、何よりもまずこの本を手に取ってほしい。環境倫理学の授業を担当する教員にも推薦したい。ここから環境倫理学の個別のトピックに興味を持った方は、吉永(2017)『ブックガイド環境倫理』(勁草書房)や、吉永・福永(2018)『未来の環境倫理学』(勁草書房)を参考にしてほしい。
統計学の哲学的基礎について、おそらく本邦初の著書。本書から色々と勇気づけられる記述が多く、「統計学について哲学の観点からこのように語っても構わないのだ」という強いメッセージを受け取った。できれば統計学についてある程度の知識を持ってから読んだ方が得るものは多いと思う。
12月
- 古田徹也(2020)『はじめてのウィトゲンシュタイン』NHK出版。
前期・後期のウィトゲンシュタインに入門したい方にはまずもってこの一冊を勧めたい。何よりも記述が平明であり、ウィトゲンシュタイン信者にありがちな(というと少し語弊があるかもしれないが)挑戦的な物言いも少なく、あくまでも自然な仕方で読者をウィトゲンシュタインの思考の核心へといざなってくれる。
- Richard Rowland, Moral Disagreement, Routledge.
道徳的不同意に関する最先端の議論について知りたい方にはぜひともお勧めしたい一冊。私は一気に読み切ったので色々と見落としもあるとは思うが、認識論における不同意論のサーベイも行き届いているし、メタ倫理学での不同意論に関心のある方にも楽しめる入門書なのではないかと思う。
Moral Disagreement (New Problems of Philosophy) (English Edition)
- 作者:Rowland, Richard
- 発売日: 2020/11/25
- メディア: Kindle版